BiSHの「ウォント」「デパーチャーズ」の歌詞について書いてみましたよ。

2016/01/21 02:03編集後記 BiSH 歌詞について 

やまー。

BiSHの2ndアルバム「FAKE METAL JACKET」がリリースされました。アルバム書き下ろしの8曲を含む全13曲。
1stアルバムリリースでのデビューからシングル1枚をはさんで1年も経たないうちの2ndアルバム。BiS時代からそうでしたがこの異常な楽曲制作スピードはファンとリスナーを飽きさせるないですね。

さて、今回の「FAKE METAL JACKET」。1stを上回る出来、と言うのはメンバー本人のインタビューを始め、各所で耳にするのですが、そのクオリティを高めている要因に"歌詞"があるのは間違いないのではないでしょうか。

そこで「FAKE METAL JACKET」の歌詞の何が、そしてどこが素晴らしいのかを"歌詞読むのが大好き人間"の僕なりにまとめてみたのでよければ以下、お付き合いください。

ウォント/作詞:モモコグミカンパニー

僕が個人的に思っている「この人の歌詞はすごい四天王」というのがありまして、

たむらぱん、高橋久美子(ex. チャットモンチー)、JxSxK、プー・ルイ

これまでこの4人が揺るがざる存在だったのですが、それに割って入ってきそうな人が一人が現れました。それがBiSHのメンバー、モモコグミカンパニーさんです。

アイドル自らが書く歌詞というのは拙いながらも等身大のその人が浮き上がって期待以上の傑作が生まれることが時々あるのですが、モモコグミカンパニーの歌詞にはそういう「甘いが故の上出来」というのがほとんどありません。"歌詞"としてのレベルや完成度が非常に高いんです。

中でも「ウォント」は作詞のお手本と言ってもいいような作品です。
アルバムのリリース前にsoundcloudでこの曲と歌詞が発表になり、歌詞のクレジットに「作詞:モモコグミカンパニー」と記載されていたのを見て、こんなことをつぶやきました。

普通に考えてアイドルがこんなレベルの高い歌詞を書けるわけがない、と。
上の「この人の歌詞はすごい四天王」にあるJxSxKことBiSHのマネージャー渡辺淳之介氏が手助けをして仕上げたに違いない、と思っていた訳です。

なのでこの歌詞についてモモコグミカンパニーの単独インタビューをした時に、

「これ、どこも直されてないんですよ。」

と言われた時は本当にビックリしました。

【歌詞解説(歌詞の内容はsoundcloudで)】
歌詞の内容を分類すると「テーマ語り&状況説明系」(と僕が勝手に決めた類型)になると思います。この曲では恋人同士のとある状況がテーマになっています。
歌詞の中で恋愛がテーマにごく普通なのでテーマ自体に面白さがあるわけではないのですが、まず素晴らしいのが歌詞の構成です。

1番の歌詞の前半は愚痴に近い一人語りによって主人公の女の子が置かれた状況について描写がされているのですが、後半のサビではその状況を受けての女の子の心象描写に変わっています。前半部分はリアリティのある表現、後半部分は抽象的な表現と言えるかもしれません。
こういうある一つの状況に対して表現を使い分けたり、視点を変化させたりするのは単純に"書く力"が求められる部分なので、ここまで読んだところで「おっ!すごいじゃん」と思うわけです。
しかもその変化をいきなりではなくて、「ゆらゆらと...」のフレーズを間に挟んでいるのも心憎いポイントです。

さらには1番と2番のどちらも同じ構成を守っています。1番と2番の構成が同じになるのは歌詞としては普通なんですが、それが普通にできちゃってるのが「ウォント」の歌詞で、しかも2番の冒頭は、1番とは若干違うシチュエーションが描かれています。こうやって同じテーマを別の角度から書くことによってモチーフ(ここでいう主人公の女の子)がより浮き彫りになって読み手(聴き手)が感情移入しやすくなるんです。

ここまででも相当レベルが高いんですが、さらに「ゆらゆら」「くらくら」、「カワイイ子」「タイプの子」と韻を踏んだり、「かすむ景色」「にじむ景色」みたいな比喩表現もさらっと入ってるところがすごいです。

しかも、しかもです。その上に1番と2番で譜割りをきっちり揃えているのが驚きなんです。僕の想像ですが、語数をあわせるのと表現をどうするかについては相当に推敲を重ねたんじゃないかという気がします。

...と言う感じでこの「ウォント」には歌詞(作詞)に必要な要素がかなりハイレベルにつめ込まれています。だからこそ余計にモモコが一人でこの歌詞を書いたというのが信じられなかったんです。

デパーチャーズ/作詞:モモコグミカンパニー

「ウォント」の歌詞が素晴らしいのは間違いないのですが、もしかすると「たまたま上手く書けちゃった」的なラッキーパンチという可能性もゼロではありません。
なので他の歌詞もちょっと見てみたいと思うのですが、「ウォント」の歌詞が偶然じゃないのは「デパーチャーズ」の歌詞でよく分かりました。

今回「FAKE METAL JACKET」のアルバムを最初に聴いた時、すごく歌詞が気になったので新曲全ての歌詞を書き起こせる範囲で書き起こしてみました。
その中で「これは!」と引っ掛かった中の一つが「デパーチャーズ」です。

僕はこのタイプの歌詞のことを「瞬間切り取り系」と分類しています。このタイプの曲で一番好きなのはBENNIE K「エピローグ」なんですが、気になる人は以下の解説を読んだ後にどこかで探してみてください。

例えば「ウォント」の歌詞の内容は既に終わってしまったこと、過去の出来事をモチーフにしています。結論がある内容について書かれた歌詞です。一般的な歌についても同様なんですが、歌詞には起承転結といった物語的な構成になっていたり、結論がある上で書かれているものの方が圧倒的に多いはずです。

書くことに限らず、結論がないまま終わるのは気持ちが悪いのでそうなるのはごく自然なんですが、結論がなくても割とオッケーで成立してしまうのが歌詞の世界。これは詩や短歌、俳句ではよく見られるパターンですが、歌詞の場合は多少文章的な表現も混じってくるので物語的になりがちなのですが、それでも「瞬間切り取り系」の表現が十分に許される世界です。

【歌詞解説(歌詞の内容はsoundcloudで)】
モモコは「デパーチャーズ」の歌詞についてOTOTOYのインタビュー
「この曲は浪人生に聞いてほしい。自分はここにいたくないのにいなくちゃいけない、何も出来ない、ってときに聞いたらスカッとするんじゃないかな。やりたくないことをやってるときってストレスが溜まるから。」
と語っています。

その通り、この歌詞の中に登場する誰かくんは非常に鬱屈した環境にいるのが分かります。
その状況に対して「何もつかめないのなら 死ぬ気で勝負さ」「たかが運命なんてもんは 変えてゆける気がするんだ」と強烈なパンチラインで鼓舞していますが、その誰かくんが最終的にどういう結末になったかについては一切触れられていません。

純粋なこころは 変わっていないのに
淀んだ空気、片隅 ため息ついてた

で終わってしまい、この先ハッピーエンドなのかバッドエンディングになったのかも分からないし、それを予想させる材料も歌の中にはありません。ある意味無責任と言ってもいいぐらいに何も解決させていないのが「デパーチャーズ」です。そう。この歌詞自体に「デパーチャーズ」というタイトルが付いてる自体が投げっぱなし感でいっぱいです。

ただ、誰もが一度は「デパーチャーズ」のような行く末の見えない状況やどんだけ頑張っても結果を自らが左右できない瞬間に遭遇することはあるはずで、普通にこの手の歌詞を書いてしまうと、その先の結論にまで筆が走ってしまいがちなんですが、そこには一切触れずにスパっと終わらせてしまうのはとても潔いよいし、案外その方が逆にリアリティがあったりもします。

「デパーチャーズ」の歌詞を読んでいるとモモコは書くスキルがあるだけでなく、普段からたくさんの歌詞やそれに類する文章を読んでるんだろうなぁ、というのを感じさせます。

技術的なところで一つだけ言及すると、「ウォント」が短い言葉を重ねてるのに対して、「デパーチャーズ」は一つ一つのセンテンスが長めです。長い文章をメロに合わせて譜割りをするのは語彙や表現のバリエーションをどれだけ持っているかに懸かってたりするので、そこにもモモコの非凡さを感じるを得ません。

...と、なるべく客観的な分析になるよう色々書いてみましたが、作品(=歌詞)に対する解釈は論考は人の数だけあるべきだと思うので、ここに挙げたものはあくまで一意見としてお読みください。

「FAKE METAL JACKET」の収録曲の歌詞についてはあと数曲言いたいことがあるので、また改めて書きたいと思います。

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