BiSHの「Primitive」「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」の歌詞について書いてみましたよ。

2016/01/27 01:07編集後記 BiSH 歌詞について 

やまー。

BiSHの2ndアルバム「FAKE METAL JACKET」の歌詞について書いてみるシリーズの最終回です。

はじめにお断りしますが、ここで取り上げてない曲の歌詞がダメということはありません。「他のアイドルの歌詞については書かんのかい!」というご意見については、書きたいネタはたくさんあるのでしばしお待ち下さい。

今回解説するのは「現身(うつしみ)型・自己投影型」と(僕が勝手に)分類しているタイプの歌詞についてです。これは書き手が自分のことを書いている、あるいはそうとしか思えない内容が書かれている歌詞のことを指しています。

この手の歌詞は内容や曲調を問わずヘビーな内容になりやすい傾向がありますが、書き手や歌い手のキャリアを通じて愛される歌になることも多いのが特徴です。

BiSHの「FAKE METAL JACKET」の新録曲でいうと、「Primitive」「ALL YOU NEED IS LOVE」「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」の3曲がこのタイプだと思いますが、ここではハシヤスメ・アツコ×JxSxK作詞の「Primitive」とセントチヒロ・チッチ×松隈ケンタ×JxSxK作詞の「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」について解説します。

Primitive/作詞:ハシヤスメ・アツコ × JxSxK

この「Primitive」を語る上ではどうしても前置きしないといけないのがBiSの「primal.」です。BiSで一番有名になった曲は「nerve」でしたが、一番すごかったのはやっぱり「primal.」だったんじゃないかなぁといまだに思っています。

その「primal.」をオマージュしたと言わざるを得ない「Primitive」。この歌詞はハシヤスメ・アツコとJxSxKの共作ということですが、どの部分を誰が書いたか?という推測はあまり挟まずに解説したいと思います。


【歌詞解説(歌詞の内容はsoundcloudで)】
これまでの記事で紹介した「ウォント」「デパーチャーズ」「身勝手あいにーじゅー」「beautifulさ」の歌詞には一つ共通点があります。
それは「情景描写のうまさ、鮮やかさ」です。どれもアイドルが自筆したとは思えないぐらい情景描写が優れていて、歌詞を読んでいるだけで語られている状況や登場人物の関係性が容易に想像できるものでした。

ところがこの「Primitive」はそれらとは全く逆で、歌詞の内容はどこを取っても曖昧でぼんやりしていて抽象的。

「あの頃」っていつ?
「偽善者」って誰?
「透かし絵の先の世界」ってなんなのさ!?

具体的な説明やそれを促すようなメタファー(比喩・暗喩)もほとんどなく、思わせぶりな単語や短いセンテンスを並べて、それが何を訴えているかを読み手に想像させる構成になっています。

「繰り返す思い出は」と言うフレーズが「primal.」と強い関連があることを気づかせますが、実はこの歌詞が持っている歌詞の構成自体が「primal.」のオマージュになっているような気がする...というのはちょっと深読みしすぎかもですが、そんな内容の「Primitive」です。

実際のところ「primal.」の歌詞もかなり抽象的で、一見すると何について書かれているのかが非常に読み取りづらいです。ただ、そのぼんやりした歌詞が生々しく感じるぐらいにBiSのヒリヒリした毎日があり、それでも両足で地面を踏みしめているメンバーが目の前にいました。曖昧な歌詞を補完して余りある現実があったからこそ「primal.」はたくさんの人を感動させたんじゃないかなぁ?と思っています。

あとこれは歌詞の話ではないですが「Primitive」は「primal.」の振りも随所に引用されています。中でもサビでメンバー全員が後ろを向いて両手を上げる「primal.立ち」(と勝手に呼んでる)が象徴的ですが、そもそもBiSがそれを初めて披露されたのは2011年12月20日放送の深夜TBSの番組「ライブB」でのことでした。

まだ歌番組でのライブが口パクかどうかは不問にされていた時代だったにも関わらず、地上波キー局初登場(だったはず)のBiSが歌付きのオケが流れる中で観客に背を向けてマイクを天井に突き上げてる姿は痛快そのものでした。既成のルールやおためごかしには全部に中指を立ててやろう、と言うBiSの姿勢がものの見事に決まった瞬間を僕はいまだに忘れられません。

その振りをBiSHが再現しているのを見るとどうしても当時のことがフラッシュバックしてしまうのですが、「primal.」と「Primitive」が大きく違うところとして、当時のBiSと「primal.」の歌詞が非常に刹那的だったのに対して、BiSHと「Primitive」の歌詞は抽象的な表現の中にも強い未来志向があるのが伺えます。雑誌「BOUQUET」のインタビューでもハシヤスメ・アツコが「『Primitive』はまさにBiSHの今後や、今置かれている状況をイメージして書きました。」と語っていたのがとても象徴的で、今はまだよく分からない"透かし絵の先の世界"もこれからのBiSHを追いかけていくことで見えてくる...。「Primitive」はそういう歌なのかなぁと思っています。


BUDOKANかもしくはTAMANEGI/作詞:セントチヒロ・チッチ×松隈ケンタ×JxSxK

【歌詞解説(歌詞の内容はsoundcloudで)】
「Primitive」はハシヤスメ・アツコとJxSxKの共作でしたが、この「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」は作詞にセントチヒロ・チッチ、松隈ケンタ、JxSxK3人の名前があります。
個人的にはこのタイトルと作詞のクレジットを見ただけでお腹いっぱいなのですが、BiSHの2ndアルバム「FAKE METAL JACKET」はこの曲で締めくくられています。

この記事の冒頭で今回解説する2曲は「現身型・自己投影型」と紹介しました。
もちろんこの曲もBiSHが武道館を目指すことを表明する曲なのでそれに間違いはないのですが、歌詞(というか歌)には書き手の意図とは全く違うところで「これ、俺のことじゃん!」「私のこと歌ってんじゃん!!」と、読み手が勝手に思い込んでしまう「他者投影型」というタイプがあるんですが、僕にとって「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」が正にそれでした。

「もう一度BiSを始める」の第一声で始まったBiSHのプロジェクト。BiSを途中で追うことをやめていた僕は「え?もう一回BiS?BiSの何をもう一回やるの?」とその意図がよく理解できず、ニュースを見ても「ふーん」というぐらいの感想しかありませんでした。

ただ、1stアルバムの「Brand-new idol SHiT」を聴いて初めてBiSHで何をもう一度やろうとしているのかが分かったような気がしました。

「もう一回。今度こそ本当にトップを取ってやろう。武道館だけじゃなくその先にも行ってやろう」

そんな想いと意思を強く感じたのがBiSHの1stアルバムでした。

そしてその後、BiSHの取材をするようになり、短い期間ながらもメンバー一人ひとりと触れ合っていると「やっぱりこのメンバーは武道館に行くために選ばれたんだな」と思うことがしばしばありました。決してたまたまじゃない、"代わりなんていない"7人が集ったのがBiSHなんだな、と思っています。

BiSHについてそんなことを感じていた中で聴いたのが「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」の

"いつだか忘れかけてたコト
ふと思い出させてくれたんだ"

のフレーズでした。

BiSHというプロジェクトを始めた理由、それを踏み出した時にかつてBiSを取り巻いていた人たちが再び集まってきた理由、そして僕自身もBiSHを追ってる理由がこのフレーズにぎゅっと詰め込まれているような気がしました。

BiSでやり残した武道館のステージ、BiSでは見ることができなかったその先の未来。
それを「今度こそ必ず見てやろう。そして今度はもっとうまくやってやろう。」そう思って始まったのがBiSHなんじゃないか。現時点での僕はそんな風にBiSHを思いながら追いかけています。

...とこの辺で僕の「他者投影」は終わりにして歌詞の話に戻しますと、この「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」は「Primitive」と少し似ていて抽象的な表現が多いです。またそれだけでなく「そこに立つための資格を掴みたいんだ」の様に分かりやすいけどあまりスマートじゃない表現も目立つ歌詞です。

ただ、キレイな表現であればよい、という訳ではないのが歌詞の面白いところで、言葉の拙かったり、説明が足りてなかったりするからこそ、そこを読み手が想像力や思い込みで補って様々なの意味づけや解釈が産まれ、作品自体が深みを増していくパターンもあります。
「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」もおそらくはそのタイプの歌詞だと思います。

もしBiSHがこの先武道館でワンマンをやることがあれば、きっとこの歌は大切な一曲として披露されるでしょう。

ただ、今現在のBiSHが武道館のステージでこの曲を歌っている姿はまだイメージしづらいのが正直なところ。これからたくさん経験を積んで、"とげとげの道"も乗り越えて、大きく成長したBiSHが日本武道館で堂々と「BUDOKANかもしくはTAMANEGI」を歌ってる姿を見たいなぁと思っています。その時までは...

"そこに立つため 眼差しは一点見つめて"

頑張っていって欲しいBiSHさんです。


以上で、BiSHの2ndアルバム「FAKE METAL JACKET」の収録曲の歌詞解説はおしまいです。今回は個人的な想い入れが強くなってしまったので解説とはいえないかもしれませんが、「面白かった」「よく分からん」「全然ちげーよ、バカ」なんでもいいので感想があればお聞かせいただけると嬉しいです。


以前、誰かに「日本人は歌詞が好きすぎる」という話をされたことがあります。そこには歌詞偏重で音楽を評価をしたがる人たちへの揶揄も含んでいたんですが、確かに一時期もてはやされた"泣きウタブーム"は「いい歌=泣ける歌」「いい歌詞=泣ける歌詞」というイメージ付けを助長したようにも思います。

もちろん泣けるかどうかだけが歌詞の良し悪しではないし、そこではない歌詞の読み方や楽しみ方もあるはずなのにそういうこと記事ってほとんど見ないよなぁ、と思っていたのが今回のシリーズを書いたきっかけです。
そしてその歌詞を紹介せざるを得ないぐらい素晴らしい作品が何曲も集まっていたのがBiSHの2ndアルバム「FAKE METAL JACKET」でした。

冒頭に書きましたがBiSHだけがいい歌詞を書いてる訳ではありません。今回の歌詞解説シリーズはこれで終わりですが、他のアイドルの曲にも素晴らしい歌詞はたくさんあります。
これからもそんな素晴らしい歌詞を紹介しながら歌詞を楽しむ人が増えていったらいいなぁ、と思っています。