白いロングドレスで登場した第一部は、2011年に発表した楽曲「My Road」からスタート。NHK連続テレビ小説「おひさま」の主題歌として書き下ろされた「おひさま~大切なあなたへ」や、ピアノ1本をバックに歌われた「Moldau」、アカペラからエモーショナルなボーカルへと振り幅の広い表現で圧倒した「Shine -未来へかざす火のように-」など、優しくも力強い歌声で客席を包み込んでいく。「星つむぎの歌」では、今回も会場がひとつになっての大合唱だ。彼女のリードがなくてもほぼ全員が歌詞を口ずさめるほど、たくさんの人に歌い継がれている1曲。ゆらゆらと揺れる青いサイリウムの光が、満天の星空のような美しさを作り上げていた。
一部の最後では、これまでもずっと大切に歌い続けてきた「Jupiter」を披露。デビュー11年目を迎えてもなお聴くたびに新たな感動を与えてくれる曲であり、彼女の変化や成長を映してきた鏡のような楽曲だ。迫力、そして誇り。素晴らしい表現力以上に、彼女の美しい人間力そのもののような歌声が響き渡ると、客席からは総立ちになっての拍手と歓声が惜しみなく送られた。
感動の余韻に包まれたまま始まった第二部。聴こえてきたのは、彼女が今年の春に初挑戦したミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」の劇中で歌われた楽曲「Love Never Dies」だ。コンサート会場は一瞬で劇場となり、目の前にいる平原綾香はまるで彼女自身が演じたクリスティーヌ・ダーエのよう。日本を代表するオペラ歌手と肩を並べるほどのこの歌声を、いったいどんな言葉で表したらいいのだろう。賛辞をどれだけ並べても足りないほどの名演となったこの曲で、盛大なスタンディングオベーションが沸き上がったことは言うまでもない。プロフェッショナルな表現者としての心髄に触れたような、素晴らしい第二部の幕開けとなった。
その後も、スパニッシュなギターと2人でスリリングなセッションを繰り広げた「Spain」でのボイスパーカッション、「ノクターン」でのダイナミックなボーカルなど、彼女のこれまでの挑戦の成果が惜しみなく披露されていく。中盤、アルバム「What I am」の中でもキュートな存在感を放っていた「Tweet your love」~「Wedding Song」ではたくさんの手拍子とともにバンドサウンドを作り上げ、彼女の原点とも言うべき「JOYFUL,JOYFUL」では客席との見事な掛け合いを楽しみながら会場を盛り上げた。また、この日は11月12日にリリースされる企画アルバム「Winter Songbook」からの楽曲もいち早く披露。「HAPPY」(オリジナルはファレル・ウィリアムス)ではスペシャルゲストとして父・平原まこともサックスで参加した。後半は、震災後に出会った人たちとの心の交流から生まれたという「あいのうた」、そして最後に、この10年間の思いを詰め込んだという「What I am -未来の私へ-」が歌われた。
「今年のコンサートでは、いろんなチャレンジをすることが出来ました。いつもなんでこんなに自分は無理をするんだろう、なんで出来ないことを「やります」なんて言うんだろうって思うことがあるけど、”出来ないこと”は自分にとってすごく”やりたいこと”でもあって。朝起きるたびにとてつもない大きな壁を感じながら生きているような毎日だけど、歌を歌えるという喜びがあったからここまで来れたように思います」
支えてくれたみなさんへの感謝を言葉と歌で伝え、幕を閉じた第二部。鳴り止まない拍手に導かれて登場したアンコールでは、みんなの笑顔が輝いた「虹の予感」に続き、昨年の夏にレコード会社移籍第1弾としてリリースされた「翼」が力強く歌われた。ラストはアルバム「Winter Songbook」からもう1曲、「Auld Lang Syne~蛍の光」を初披露。日本では別れの曲として知られているが、原曲に込められているのは再会を楽しみ喜ぶ気持ちだ。全30公演が行われたこのコンサートツアーも、プレミアムなこの夜も終わってしまうけれど、笑顔でまた会う日までーー。ステージと客席の垣根を越えて交わされるあたたかい約束のような1曲を歌い終え、名残惜しそうに会場を見渡す表情が印象的だった。
この日歌われた「Love Never Dies」、初披露の「HAPPY」、「Auld Lang Syne ~蛍の光」などが収録された企画アルバム「Winter Songbook」は11月12日にリリース。また、このプレミアムアンコール公演の模様はWOWOWで11月放送予定なのでどうぞお見逃しなく。