ショートショート界の新星!?未彩先生の新作小説「それでも、」
ReLIeF西園寺未彩の連載小説2作目です。今回の未彩先生のショートショートは、女の子と桃の不思議な出会いから始まる物語。
未彩先生が描く非現実的な世界の中で日常は、星新一の作品をも連想させ、読み進めるうちに”未彩ワールド”に引き込まれていきます。
最後の4コマもキレッキレな”未彩ワールド”全開なのでお見逃しなく!
こんにちは☆この連載企画でReLIeFや西園寺未彩(@misa_saionji)に、興味を持ってくれると嬉しい♪
みさを好きになってくれると、もっともっと嬉しい♪♪
みさが書いたお話、読んでくだ西園寺\(●>ω<●)/♢キラキラ
『それでも、』
--あの頃の私は気まぐれな世の中の定義に振り回されて疲れきっていた。--
実家の母から送られてきた箱の中には、怪我をして入院中のような出で立ちで、白に守られたピンク色が整列していた。一玉、本当に怪我をしたのではないかと心配になるいびつな桃があった。気になって指で皮を引っ張る。
……包丁を入れずに皮を剥いたのは正解だった。桃の凹凸は人の顔だった。人の顔のよういうよりは、はっきりとおじいさんの顔だ。
「これを撮ってTwitterにあげたらバズりそう」
思わず独り言をもらすと
「それは良いアイデアとは思えませんね」
返答があった。どう考えても返事をしたのは人面桃だった。桃太郎という昔話を知識として与えてくれた親に感謝した。おかげで桃から人が出て来てくるのは一定の確率で起こりうることだと、幼い頃から知っている。私は桃の表面がおじいさんでも、さほど驚かなかった。
「話せますか?」
私は冷静に確認を取る。
「もちろん話せますよ」
おじいさん桃の優しそうな声が流れ込んできて、自分のポーズにハッとする。左手のおじいさんに向かって右手で包丁を突きつけているこの体制は、どう考えても歳上に対する敬意を感じない。罪を犯す寸前にも見えることに気付き、慌てて包丁を置く。おじいさんが気に入りそうなお皿を探してみたけれど、少女趣味で一人暮らしの私の家には、そんなものがあるはずもなく。適当なお皿を選び、おじいさんをそっと置いた。白いステージの真ん中でハートに囲まれながら、おじいさんは微笑んでいた。
友達の友達と二人きりになった瞬間のような、仄かな気まずさを消すために話しかけてみた。
「桃食べますか?」
桃に対して桃を食べるか聞くなんて、失礼なことをしたかもしれないと思ったのは言葉を口にした後だった。アンパンマンはあんぱんを食べていたか思い出せない。桃と会話するのは初めてで、そこまで気を回せなかった。
「いただきます」
心の中でその答えに少し驚きながらも、納得した。確かばいきんまんもバイキンにやられて体調不良になっていた気がする。きっと食パンマンも食パン食べて、メロンパンナちゃんもメロンパンを食べているのだろう。おじいさんと一緒に箱に入っていた桃を一口大に切る。おじいさんを刺さないよう慎重に爪楊枝で口元へ運ぶ。桃が美味しそうに桃を食べているのは、少しだけ不思議な光景だった。
「私はどうすればいいですか?」
おじいさんに目線を合わせて本題に入る。桃とはいえ、ずっと共同生活を送れるか不安だ。何かしらの意思をもって生まれたであろうおじいさん桃の目的が鬼退治系ではないことを祈りながら尋ねると
「……ただ、一緒にいてくれませんか?」
想像以上にロマンチックな言葉が帰ってきた。
「貴方が腐るまで」
なぜか私は、考えるより先にお伴する覚悟を伝えていた。改めて見ると、普通の桃だとそろそろ茶色くなり始めているはずなのに、おじいさんの肌は白くてみずみずしく、ほんのりピンク色で、まさに桃肌だった。おじいさん桃がどれくらいで腐るのか見当もつかない。
「ありがとうございます」
嬉しそうな声の主は、何度見ても桃だった。
おじいさん桃には“今まで”が無かった。私は生まれたてのおじいさんに、桃太郎からとって「太郎」と命名した。太郎は私のことを「お嬢さん」と呼んだ。そう呼ばれるのは初めてで、名前を呼ばれるよりずっと特別な呼び名に感じた。
太郎は生まれたてなのに私よりも世の中を知っていて、口癖は「それでも」。私が愚痴や文句を言うと「それでも」攻撃をしてきた。
私の髪は可愛いとは言えない癖毛で、縮毛矯正をものともしないレベルだ。しっかりと結ぶのが私の日課だった。
「それでも、自分で欠点だと思っているところは、誰かがお嬢さんを好きになる為に必要かもしれないですよ」
太郎がそう言うから、その日は髪を結ばずに出かけた。顔周りで風が踊るのを感じるのは、なかなか心地良いものだった。
太郎は言った。
「自分で出来ないことにぶつかるときに、当たり前のことに感謝できる」
私が持ち歩かないと動けない太郎に聞いてみる。
「不自由なの?」
「お嬢さんよりは不自由ですよ、それでも、こんなに自由なことはありません」
太郎は半分自然の自分程、自由な存在はないと言った。私は自分が普通の人間なことを窮屈に感じた。
自然を知ることがゆとりに繋がる。太郎に言われて思いついた月並みな考えは、海か山へ行くことだった。山に行き、不安定な足元の中で太郎を殺してしまうのが怖くて、海へ来た。
「海辺に立ってごらん」
言われた通りにしてみると、ひんやりとした海を感じる。
「一度愛したものはお嬢さんの一部になって、足を撫でる波のように、ふとした瞬間にお嬢さんを包み込む」
「何もかもが嫌になったとき、それでも、愛したものは消えないです」
だから安心してきらいなものを作ればいいと、太郎は言った。私も少し自然に近付いた気がして、今なら光合成ができる気がした。
私は太郎にゆとりを教えてもらって、夏になると夏服を着て冬になると冬服を着るくらい、当たり前に泣いたり笑ったり出来るようになった。
祖父が果樹園を営んでいる人で、母から送られてきた桃は、祖父が作った最後の桃だと知ったのは太郎が居なくなってからだ。私の中の黒を片端から白へとひっくり返してくれた太郎は、私のおじいちゃんだった。会ったことのない孫を気にかけて、会いに来てくれたのだと思う。みんなが教えてくれた生前のイメージは頑固で無口。私が知っている太郎とは少し違った。
結論から言うと、桃は腐らなかった。一緒に居ることが出来なくなったのは、朝起きると太郎がただの桃になっていたからだ。私はその桃を食べた。今まで食べたどの桃よりも美味しかったけれど、二階の窓も開けられないほど積もった雪の中に一人で放り出されたような気持ちになった。
それでも、太郎と過ごした時間は私には必要なものだった。
未彩先生 描き下ろし4コママンガの「太郎インタビュー」
GK DATE(ジーケーデイト)
2018年12月2日(日)OPEN 17:00/START 17:30
下北沢CLUB251
チケット:前売り 2500円/当日 3000円(+1d:500円)
チケット販売:2018年10月20日(土)10:00〜
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/018yr4zw3nv9.html
▼ 出演者
クマリデパート/校庭カメラアクトレス/ReLIeF
主催:MUSIC INISIGHT
リンク
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西園寺未彩 twitter https://twitter.com/misa_saionji