このライブは2015年9月2日に発売されたニューシングル「EGG」の購入者特典として開催されたもので、カエラが渋谷公会堂で単独ライブを行うのはこの日が初めて。台風18号の接近に伴う大雨という悪天候だったが、金髪に真っ赤なミニワンピを身にまとったカエラがステージに現れると、幸運にも多数応募の抽選を勝ち取った2000名の当選者(ペアやグループではなく、あくまでもお一人さま本人のみ入場できる)は、ホールにもかかわらずにオープニングから総立ちで迎え、大きな歓声をあげた。
「みんな雨にも負けず、風にも負けず、台風にも負けず、ここにやってきてくれたんでしょう。最高だね。今日はね、スペシャルライブだから。ひとりで来てくれてる人たちだと思うけど、みんなひとりだって大丈夫だよ。だって、私がいるから」と語り、「TODAY IS A NEW DAY」「STARs」「BEAT」とアップテンポのナンバーを立て続けに披露。この時点で、ファンは音色やアレンジがこれまでと違うことに新鮮な驚きを感じたはず。
DJが打ち鳴らすビートからはじまった「Ring a Ding Dong」や「リルハリルハ」などのヒット曲もこれまでとは異なる響きやテンションが添えられていた。
この日のライブでもっとも特筆すべきことは、やはり、この日限りのバンドメンバーだろう。彼女のバックを務めたのは、シングル「EGG」のカップリング曲「SHOW TIME」のアレンジを担当したH ZETT Mの“友人”、ヒイズミマサユ機(PE’Z)が結成したスペシャルバンド。今年の3月から6月、デビュー前から10年以上もステージを共にしてきたおなじみのバンドメンバーと共に回った全国ライブハウスツアーでは、まるでバンドの一員のようなコンビネーションを見せていたが、彼女はひとりのアーティストとして、今回はスペシャルなチャレンジをすることを選んだのだろう。着実な評価とファンから人気を得ているメンバーとこの日は離れ、スペシャルバンドが構築する音へと飛び込んだ彼女は、常に未来を信じて前へ前へと進む姿勢を示していた。「Butterfly」ではグランドピアノを弾くヒイズミとふたりだけでスケールを広げていき、これまた自身初となるストリングス隊を加えた新曲のバラード「EGG」では、大切な人と一緒に成長したいという思いを切々と歌い上げた。彼女のヴォーカリゼーションは間違いなく表現力が増しているし、立ち止まる隙がないほど躍動していたパフォーマンスからも現状維持では満足しないエネルギーの発露を感じた。
「私たちのスペシャルなライブ。みなさん、一気にやるから楽しんでください」という呼びかけから怒涛の後半戦へ。ストリングス隊も激しい弾きっぷりをみせた「You bet!!」では観客による”今日みたいな日を忘れない”の大合唱が起き、KOHの強烈なドラミングからスタートした「YELLOW」ではホール全体が揺れるほどの盛り上がりとなった。
さらに「TREE CLIMBERS」ではカエラがハイキックを披露し、ひとりひとりのプレイが大きな渦となる、音の重なりが心地よいハーモニーを生み出した「KEKKO」で本編は締めくくられた。
全13曲を歌い終えたカエラがステージをあとにすると、観客は即座にアンコールを求める。白いノースリーヴのロングワンピに着替えて再登場した彼女は、自身のツアーはもちろん、フェスでも定番曲となっている「Magic Music」を飛び跳ねながらパフォーマンス。聞きなれた楽曲ではあるが、フレーズごとにこれまでにはないニュアンスや表情がつけられていることがわかる。
最後に彼女は「この曲も『EGG』と同じように、大事なものを温めながら、転んでも立ち上がらなきゃって思いを描いた歌です。この曲を聴いて、気持ちが少しでも晴れて、明日からいいことがたくさん起こるように、気持ちを込めて歌います」と語り、柔らかな笑顔で“天気雨“を意味するミドルバラード「Sun Sower」を歌唱。「まだ雨が降ってると思うけど、みんな気をつけて帰ってね。明日からまたがんばってね。バイバイ。また会いましょう」と挨拶し、さらなる成長と変化を確信した表情とともに、12年目にして”ここからが私のSHOW TIMEだ!”という新たな出発点を刻んだイベントの幕は閉じた。
また、彼女はアンコールでクリスマス(12月25日)に東京・昭和女子大学人見記念講堂でのライブの開催を発表した。クリスマスまで待てないファンには9月20日くるり主催の京都音楽博覧会 2015 in 梅小路公園への出演、10月23日にSHIBUYA CLUB QUATTROで開催される「シブカル音楽祭。2015 ~女子が唄えば世界が踊る!?~」のヘッドライナーとして出演することも決定しているのでそちらをチェックして欲しい。(text by 永堀アツオ)