2014年夏、大注目の女性シンガーソングライターが8月6日にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューする。その人の名前は植田真梨恵。福岡県出身。歌手を志して15才で大阪へ。ギターを掻き鳴らす初期衝動あふれるライブが印象的だった彼女がインディーズ活動6年の月日の後に感じた限界とメジャーデビューを機に見出した新境地を語る。インタビューの最後には植田真梨恵によるセルフライナーノーツを掲載。さらに渋谷チェルシーホテルでのインディーズラストのライブ写真もアップした。(photo by 山田秀樹)
6年間のインディーズ活動 “曲が書けなくなった…” その先にあったメジャーデビューと「彼に守ってほしい10のこと」
直接お話聞くまで4年かかりました。2年前に別のサイトでインタビューはさせていただいたんですがその時はメールでのやりとりだったので。
植田ありがとうございます。お待たせしました(笑)
植田さんを初めて見たのは2010年6月で…
植田「葬るリキッドルーム」の時ですかね?
たぶんそうだと思います。横浜のマリンタワーでのライブに出られてて…
植田どんなでした?
すごく垢抜けてない感じでしたね(笑)
植田そうかぁ(笑)
ギターだけ背負ってやってきました、イライラを全部ぶちまけてやるぞ、みたいな姿がすごく印象的でした。
植田そう見えてたんですね。
まずはメジャーデビューおめでとうございます。
植田ありがとうございます。
プレス用の資料を拝見させてもらったんですが、そこに書かれている”セルフライナーノーツ”が非常に素晴らしくて。
植田ホントですか!?
これを読めば曲に関しては聞くことないんじゃないか?ぐらいの内容でした。
植田よかったです(笑)
なので、このインタビューをアップするときに一緒にこの全文を掲載させてもらおうかな?と思ってるんですが。(→「彼に守ってほしい10のこと」植田真梨恵セルフライナーノーツ)
植田本当に?
ただ、せっかく貴重なお時間いただいたのでお話も聞かせてください。
植田はい。お願いします。
これまでの作品も聴かせてもらってましたが、今回のシングルは結構意外だったんですよ。特に表題曲の「彼に守ってほしい10のこと」は今までの激しい感じや僕が初めて見た時の…
植田イライラ感(笑)
はい。前作まではその流れで来てたように思ったので、今回もそういう曲なのかな?と思ったんですが、表題曲の「彼に守ってほしい10のこと」は歌ってる対象に歩み寄ってるというか、昔の曲に比べるとすごく大人になった印象があったんですが。
植田歌いたいことや歌う内容に迷い始めていて。インディーズでやってきた、ただ自分の感情を垂れ流すような曲をこれからずっとやっていても意味がない、こう言う音楽をずっとやっていくなら…、ぐらいに思い始めてたというか。たぶんそれって単純な”飽き”と音楽に対してドキドキする気持ちの薄れとかなんですけど、そういう、音楽について考えていた時期とメジャーデビューの話を頂いた時期が重なって、「メジャーデビューするんだとしたらどんな曲を歌って届けていくのか?勝負していくのか?」ということをすごく考えましたね。インディーズの曲を作ってた頃より考え方も大きく変わりました。自分の気持ちをただ吐き出すような曲ではなく、それプラスアルファで前向きなところに進めるような曲を届けていかないとわざわざCDを買って聴いてもらう意味がないって思うようになったので、良い作用が生まれるようなものを作りたい…って言うのがありましたね。
その考え方ってごく最近になって変わったことですか?それとも少しずつ変わっていったことですか?
植田たぶん性格がちょっとずつ変わっていって、イライラすることやモヤモヤするようなことを歌う必要がなくなったり、そもそもイライラすることが減ってきた中で私も曲が書けなくなっていって…。それで新しく歌いたいことをずっと探していたんですけど、私は女の子が強い姿勢で戦っているところにすごくパワーを感じるので、私も戦う姿勢を崩さずにメジャーというシーンに飛び込んでいって強いパワーを持った歌を歌いたいと思ったんですよね。
ちょうど植田さんのインタビューが載ってる雑誌「MUSICA」が発売されてたので、読ませてもらったんですが”半年ぐらい曲を書かなかった”と書かれてたその時期のことですか?
植田そうです。その時期がイライラやモヤモヤがなくなっちゃって、音楽にしたいことがなくなっちゃった頃でした。
そこからもう一度自分を掘りにいって今に辿り着いたと。
植田はい。女の子が夢や希望を抱けるような歌を歌いたい、と思うようになって。私自身にだって”疑わしいこと”はたくさんあるんですけど、そういうのを全部覆していきたいなと思って。
“疑わしいこと”というのは具体的に?
植田“夢を諦めない”とか。
“夢を諦めない”と言う事が疑わしい?
植田疑わしいです。絶対諦めませんけど「叶わないんじゃないか?」と思う自分も時おり顔を出すじゃないですか、人間なので。けど、そんな不安はみんな抱いてる訳で、私はそれに打ち克っていく自分でありたい。一生。なのでそれをちゃんと大きい声で歌えるものを作って見せていきたいと思ったんですよね。
元々、植田さんの曲は聴いた人に強いシンパシーを与える曲が多いなと思ってるんですが…女性ファンも多いですよね?
植田どんどん増えてきています。
今回の「彼に守ってほしい10のこと」はより幅広い人たちに対して共感を呼ぶ歌なんじゃないかと思うんですが、そのことは意識しましたか。
植田意識しました。特に女の子たちに聴いて欲しいし、聴くだけじゃなくて歌って欲しい。それで元気が出たらすごくいいなと思って。あと私が目指している”歌っている人像”っていうのは、テレビの中で歌ってる人で、家族で、居間で、テレビを囲んで…ってたぶん今どきあまりないのかもしれないですけど。例えばそういう場面で流れたとしても誰も気まずくならない、全員が各々の立場で楽しめる様な曲にしたい。だとしたら絶対歌詞に「死にたい」とか書きたくないし…そういうことは考えましたね。
歌っている内容だけじゃなく、アレンジもすごくキャッチーだなと思ったんですよ。表現が難しいんですけど”メジャーっぽい”なって。
植田よかった。
それまでは”刺さる”ようなアレンジの曲が多かっ…
植田ふふふ(笑)
表現違います?
植田いやそうですね(笑)全くもって違ってないです。
特に表題曲に関してはすごく広い人に聴いてもらえそうなアレンジになってるな、って思いました。
植田ヘンに耳に引っかかることをやりたくなくて。なるべくナチュラルに曲が進んで違和感なく終わる。それで歌がちゃんと入ってきて心の中に曲が残るっていうふうにしたかったんですよ。フックだらけにして…ゴテゴテに武装して、ってそういう曲を書くよりは、より生身でシンプルに歌だけが本質的にちゃんと届くダイレクトなものを作ろうって意識でした。実際、シンプルにはなったと思ってるんです。決して派手ではないと思うので。だから、”メジャーっぽい”と言われるとちょっと…不思議?
何をもって”メジャーっぽい”というのもありますけどね。
植田そうですね。むしろ自分ではちょっと地味にしたぐらいの気持ちでもあるので。”メジャーっぽい”と言われて安心しました。
編曲のクレジットに”いっせーのーせ”って書いてあるんですが、最初こういうアレンジャーさんがいるのかな?って思いました。
植田あ、やっぱり思うんですね。
ライナーノーツを読んだら違うのが分かったんですが、これって言ってみたらセッションですよね。
植田そうです、そうです。私の中では「ここではこういうリズムがあって」とか、あるべき姿に出してもらった感じが大きいんですけど、みんなでスタジオに入ってひとつずつ肉付けしながら「これは違います」とか話しながら音を出して組み立てていった感じです。ギターはちょっと要素が多すぎるんで、その時はアコギとベースとドラムで。後からギターのフレーズを練ったものとピアノをレコーディングしました。
実は僕がSensationがものすごく好きで…
植田そうなんですか!?
クレジットにSensationの方の名前が入ってたのがすごく嬉しかったです。
植田麻井さんも車谷さんも前からお世話になっていて、こうやってスタジオで合わせて作るのは初めてだったんですけど、よりバンドっぽいというか。かなりしっくりくるアレンジになったと思います。
歌の内容に話が戻ってしまうんですが、初期衝動のインパクトが強い人ってそこから変わっていくのが難しいんじゃないかな?って思うんです。それまでと違うことをやると「私の知ってる◯◯じゃない」みたいに思われたり。
植田確かに確かに。
ただ今回の植田さんみたいにメジャーに行くタイミングでのシフトチェンジは、これから初めて聴く人にとっても入りやすいし、今まで聴いてくれたファンにも良い形になってるんじゃないかな?と思うんですが。
植田やっぱりメジャーでやるからには多くの人に届けなきゃいけないと思ってて。ネガティブなワードを入れない、シンプルにする、疲れなくて済むようなアレンジにする、は絶対やろうと思って作ってたんですけど、でもこれはまだ一部にしか過ぎないというか。メジャーに行くにあたって自分で決めたルールは色々あるんですけど、その中でも「こういうアプローチができる」っていう曲はまだあるのでそれをこれからも見ていって欲しいですね。
3曲目の「アリス」のライナーノーツに「”いいこと”と”悪いこと”を繰り返す、という選択肢をとることができるか?」と書かれているんですが、この中に活動を始めてから6年間続けてこれた”何か”が含まれてるように感じたんですが。
植田そうですねぇ…確かに。私も何回も辞めよう…というよりは”辞めなきゃいけないかもしれない”って感覚なんですけど、作品を出すたびに思ったりもしてて。…でもアップダウンだと思うんですよ、ホントに。いい時があれば悪い時も絶対あるし、いい時がずっと続くから続けられるという訳でもなくて。(ライナーノーツに)書いてる通りなんですけど、それでもなんとか続けてこられて…でも変化はしていくものだと思うんですよね。「アリス」はすごく過去に書いた曲ですけど、普遍的なことを歌っていると言うか、この中でさえ過去を振り返ってるというか。だとしたら時系列もそんなに関係ない普遍的なキーワードになってる曲だなって思います。あとノスタルジックと女の子っぽいっていうのが今回私の中で”こっそりテーマ”だったので、それにもすごく合うし、入れたいなと思いましたね。
今回のシングルは収録曲が3曲ありますが、がっつりアレンジを入れた曲は「彼に守ってほしい10のこと」だけで、残りの2曲は「ダラダラ」が弾き語りだったり、「アリス」もすごく抑えたアレンジだったり。こういう構成になったのは理由があるんでしょうか?
植田そんなにこだわった訳ではないんですけど「ダラダラ」はライブでもやってるし、今の私が歌うとすごくリアルな意味を持てるというか、ちゃんと私が私として歌える曲でもあるので入れました。今回の3曲はより生々しいものとして作っておきたかったので、良いバランスになったと思ってますね。
最近の植田さんのライブは弾き語りが多いので、植田さん自身のイメージもその印象が強いんですね。
植田ですよね。
なので表題曲以外の2曲があることで「彼に守ってほしい10のこと」は今の植田さんっぽいシングルになった印象があります。
植田良かったです。
このシングルで初めて植田さんを知ってライブに来る人も納得しやすいんじゃないかな、と。
植田「彼に守ってほしい10のこと」もその他の曲に関しても、さっきも言ったんですけど、無理に”武装する”のが嫌で。無理にガチっと高いところに合わせなくても、曲そのものが持ってるパワーだけで勝負できると思ってるんですよ。「ダラダラ」に関しては、弾き語りでライブすることが多いから歌とアコギだけで成立するホントにいい歌を書こうっていう気持ちが大きかったし、どの曲に関してもアレンジが外れてしまった時にもちゃんと力を持ってる歌っていうところで選んでいるので。そんなにがっちり作りこむか込まないかはそんなに関係ないというか、”それでもいい歌”っていうものを入れていきたいというのがありますね。